整理しておきたい法律上の論点
古いハードウェアの販売、サポートが終了している状況で、レトロゲームをROMに吸い出し、エミュレーターでプレイすることがあります。筆者も、エミュレーターの利用を積極的に推奨はしませんが、バッテリー切れでセーブできないゲームを楽しめるなどの利点から、あくまで合法的であることを前提にエミュレーターを利用することがあります。
どの行為が合法でどの行為が違法かを正しく理解していないと、権利者に損害を与えかねず、大きなトラブルにつながります。そこで本題のゲーム紹介に入る前に、まずは関連する法的論点を整理しておきたいと思います。
区分 | 代表的な論点 | 概要・注意点 |
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①エミュレーター本体 | プログラムの合法性 | エミュレーター・ソフト自体は「著作物と互換性を確保するためのリバースエンジニアリング」として開発されたものであれば違法性は原則なし。問題は 違法的に抽出されたBIOSを利用する/暗号解読機能をハックする場合で、後述の回避規制に抵触する可能性がある。 |
②ROMイメージの入手 | 私的複製(著作権法30条) | 自分が所有するカセット/ディスクから自力で吸い出す行為は「私的使用のための複製」として適法。ただし コピーガードが施されている場合、解除行為自体は違法(技術的保護手段回避)。 |
インターネットからのダウンロード | ネット上に無断アップロードされたROMをダウンロードする行為は、権利者が告訴しなくても刑事罰対象になり得る(違法ダウンロード拡大 2020 年改正以降)。(首相官邸ホームページ) | |
原本保有義務 | ROMを吸い出したまま元ソフトを売却・譲渡すると複製権侵害。処分した場合は吸い出しROMデータも削除する必要がある。 | |
③BIOS・ファームウェア | コピー/配布の可否 | BIOSはプログラム著作物。自機からの私的吸い出しは合法だが、技術的保護手段を回避して吸い出す行為は違法となる。配布・再販は当然、刑事/民事責任の対象。 エミュレーターに付属しているBIOSを利用したり、インターネットからダウンロードするのは違法。 |
④技術的保護手段の回避 | マジコン・吸い出しアダプタ等 | 「技術的保護手段(TPM)を回避する機器・プログラムの製造/販売/広告/輸入」は 3 年以下の懲役または 300 万円以下の罰金(著作権法120条の2)。ユーザーが DRM を解除して吸い出す行為も違法化された。 |
⑤ROM内蔵型エミュ機の輸入・販売 | 公衆送信権・複製権侵害 | 海賊版ROMを同梱したポータブル機を販売・紹介した海外YouTuberが摘発された例がある。輸入業者・紹介者も幇助責任を問われ得る。これは怖い。。 |
⑥配信・実況(公衆送信権) | ストリーミング時の許諾 | エミュレーター上のプレイ画面をYouTubeなどに配信すると ゲーム映像・音楽の公衆送信に該当。出版社が示すガイドライン(例:任天堂、スクエニ等)に沿わない配信は著作権侵害リスクがある。 |
⑦保存・アーカイブの共有 | 文化的保存とフェアユース議論 | 国立国会図書館や一部NPOが権利者の許諾を得てアーカイブを進めているが、個人が「保存目的」で無断共有、他社に利用させることは違法。 |
⑧国際要素 | DMCA・Yuzu 和解 | 2024 年、任天堂はSwitchエミュレーターYuzu運営と240万ドルで和解し、ソースコード削除・開発停止を実現。米国DMCAでは 暗号化回避機能の提供自体が違法と判断された。 |
⑨商標・不正競争防止法 | ロゴ・名称使用 | 海外ROMを集めたエミュ機に「任天堂」「SEGA」のロゴを印刷すると商標権侵害。不正競争防止法による差止・損害賠償の対象にもなり得る。 |
チェックリスト
- オリジナルソフトを必ず所持する
- コピーガード解除を伴う吸い出しは避ける
- ROM/BIOSは自分の実機から吸い出す
- 権利侵害の可能性があるROM/BIOSを含む可能性があるエミュ機・ROMサイトは利用しない
- 配信・実況はメーカーガイドラインを遵守
- 不安がある場合は掲載しないか、公式復刻版(Nintendo Switch Online など)を利用する
筆者の対応状況
チェックリスト | 対応状況 |
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オリジナルソフトを必ず所持する | 筆者はオリジナルソフトを全て所有しています。 |
コピーガード解除を伴う吸い出しは避ける | エミュレーターでプレイする対象は、コピーガード(技術的保護手段)が施されていない下記のレトロ機種のソフトに限定しています。 – ファミリーコンピュータ – スーパーファミコン – メガドライブ – ゲームボーイ/ゲームボーイカラー – ゲームボーイアドバンス |
ROM/BIOSは自分の実機から吸い出す | ROMの吸出しは自分で行っています。また、対象のレトロ機種については、BIOSがなくても正常に動作するため、BIOSの吸出しは行っていません。 |
権利侵害の可能性があるROM/BIOSを含む可能性があるエミュ機・ROMサイトの利用・紹介はしない | 権利侵害の ROM や BIOS をダウンロードした時点で違法となるため、十分に精査したうえで問題のないエミュレーターのみを利用しています。当然、ROMのダウンロードは一切行いません。 |
配信・実況はメーカーガイドラインを遵守 | 基本的に動画での配信、実況は行いませんが、行う場合はガイドラインを遵守します。 |
不安がある場合は掲載しないか、公式復刻版(Nintendo Switch Online など)を利用する | 基本的にグレーな方法は紹介しません。 |
機種別コピーガード対応状況
区分 | 機種(発売年・メディア) | 採用された主なコピーガード/TPM |
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コピーガードなし/きわめて簡易(暗号化・セキュリティ IC を持たず、物理形状や簡易ヘッダ検証レベル) | – ファミリーコンピュータ〈1983|ROM〉 – PCエンジン/TurboGrafx-16〈1987|HuCard〉 – メガドライブ/Genesis〈1988|ROM〉 – ゲームボーイ/カラー〈1989-1998|ROM〉 – ゲームボーイアドバンス〈2001|ROM〉 | ・フラッシュカートなどで比較的容易にバックアップ ROM が動作・サードパーティ制限は物理形状で担保する世代 |
コピーガード あり(CIC チップ/メディア暗号/デジタル署名などで未認証ソフトをブロック) | 任天堂系 – NES(US)〈1985〉10NES ロックアウトチップ – スーパーファミコン/SNES〈1990〉CICチップ – Nintendo 64〈1996〉改良 CIC+簡易暗号 – ゲームキューブ〈2001〉ミニ DVD+署名 – Wii/Wii U〈2006/2012〉AES 暗号光ディスク – Nintendo Switch〈2017〉暗号 ROM カード+カード内認証 IC セガ系 – セガサターン〈1994〉CD 外周のリングコード+リージョン – ドリームキャスト〈1998〉GD-ROM+MIL-CD チェック ソニー系 – PlayStation〈1994〉CD wobble groove 認証 – PlayStation 2〈2000〉DVD 署名 – PS3/PS4/PS5〈2006-2020〉Blu-ray 暗号+署名 マイクロソフト系 – Xbox (初代) / 360 / One / Series〈2001-2020〉光/SSD 暗号+BIOS 署名 | ・第5世代(32bit 光ディスク)以降は暗号チップやメディア暗号が標準・未認証タイトルはハード改造やブートディスク無しでは起動不可 |
スーパーファミコンのCICは技術的保護手段じゃないの?
CICスキップが「技術的保護手段の回避」に当たるかを分解して考える
チェックポイント | エミュレーターの実装 | 法的評価のポイント |
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① ROM 読み出し方法 | カセットのデータバスを直接スキャンし、本体にイメージを一時保存(いわゆる“インストール”)してからエミュレーターで実行する。 | CIC は “コンソール側”と“カセット側”がハンドシェイクすることで初めて機能する。カセットの ROM チップ自体は平文で、読み出し時に暗号化も検査信号も出さないため、データを吸い出すだけでは技術的保護手段(TPM)の「除去・改変」に当たらない。 |
② CIC ハンドシェイクの有無 | SNES系のエミュレーターを動かすハードウェアはCIC信号線を実装していない。したがって「ハンドシェイクそのものを発生させない」構造。 | 日本の著作権法で言う TPM 回避 とは、保護信号を「取り除く・改変する」行為を指す(2条1項20号、113条3項等)。ハンドシェイクを発生させないままROMを読む行為は“回避”の定義外とされるのが通説。 |
③ ユーザー側の行為 | – カートリッジ所有者が私的にプレイ:私的複製の範囲 – CFWで暗号を解除 → ROM を汎用フォーマットで保存:TPMを除去に当たりグレー – その ROM を配布・DL:複製権/公衆送信権侵害(刑事罰) | 違法リスクは「CFWで暗号を外す」「ROMを流通させる」段階で初めて顕在化。コピーガードを外さずに個人が遊ぶだけなら、現行法上は問題にならない。 |
ダンパー+エミュレーターは「CIC 回避装置」とみなされない理由
- CIC は本来“本体側のロック”
- カセット側 ICは鍵情報を出すだけで、データ保護機能は持たない。
- エミュレーターはそもそも本体側CICを搭載しておらず、回避対象のTPMが存在しない。
- 違法・グレーになるのは“暗号解除して外部流用”以降
- CFW・ツールで暗号解除 → ROM を汎用化すると TPM除去(著作権法113条3項)に該当し得る。
- ROM を配布・ダウンロードすると 複製権+公衆送信権侵害(2020年改正で非親告化)。
要するに
- 自分のスーファミカセットを読み込ませて遊ぶだけ → 現行法ではセーフ。
- 暗号を破って ROM を吸い出し共有 → CICとは別の問題としてTPM回避・違法配布でアウト。
法律は本当に難しいですね。たとえば、商用プロダクトであるレトロフリークも、あの権利保護に厳しい任天堂から訴訟やクレームを受けていないようです。そのため、スーパーファミコンの CIC スキップは合法と考えられます。ただし、N64以降のカセットや DS 系、DVD 系など暗号化が施されているゲームのダンプは推奨しません。
まとめ
本記事で紹介した条件を守れば、日本の現行法においてエミュレーターでレトロゲームを楽しむことは合法な範囲に収まると考えます。
- 自分が所有するソフトからの吸い出し、オリジナルを所持し続けること
- コピーガードや暗号化の解除を行わないこと
- インターネット等から違法に入手したROMやBIOSを使わないこと
- 各メーカーの配信・利用ガイドラインに沿うこと
これらを守ることで、安全かつ健全に懐かしのゲームを楽しむことができます。なお、本記事はエミュレーターの利用を推奨するものではありません。内容の正確性を保証するものでもなく、エミュレータの利用はご自身の判断と責任でお願いします。
次回は「ブログでゲーム紹介する際の注意点」
一定のルールを守れば、レトロゲームをエミュレーター上で合法的にプレイできることが分かりました。ただし、ブログ上でゲームを紹介する際は、著作権上の注意が必要です。また、合法的にエミュレーターを利用できるといっても、それをブログに掲載する場合は、公序良俗の観点で配慮すべき点があると思います。今回は記事が長くなりましたので、この点については次回の投稿で改めて取り上げたいと思います。
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