同じ歌詞をバラードとロックで──Claude+ComfyUIで「五十路の夜はこれからだ」MVを2本作った

ステージでゲーミングPCを掲げるオヤジ テクノロジー

金曜の夜、スーパーで半額シールの惣菜を選び、娘に送ったLINEの既読を待ちながら、170万円のパソコンの隣で眠る。この連載を読んでくださっている方はお察しの通り、これは全部私のことです(多少の脚色があります)。

どうせなら、この哀愁を歌にしてしまおう。しかも同じ歌詞をバラードとロックの2バージョンで。しっとり歌えばただの悲しい中年、叫べばなぜか不屈のアンセム——そんなギャップを狙って、Claude + ComfyUIでミュージックビデオを2本作りました。楽曲はMiniMax Music 3、映像はMiniMax H3、すべて前回ベンチマークした自宅のRTX 5090でのローカル生成です。

まず完成品をどうぞ:「五十路の夜はこれからだ」

バラード版(哀愁)

バラード版(82秒)。楽曲・映像・歌唱すべてAI生成

ロック版(同じ歌詞)

ロック版(77秒)。歌詞は一字一句同じです

歌詞はこちら。バラードで聴くと切なく、ロックで聴くと「それでも腹は減る!」が謎の生命力を放つのがお分かりいただけたでしょうか。

金曜九時の スーパーの半額シール
かごの中には 一人分の惣菜
娘に送ったLINEは 今日も既読つかない
絵文字の使い方が 違うんだろうか

百七十万の 夢の機械を迎えて
残高を見て笑う 笑えるうちは まだ大丈夫だ

それでも腹は減る 明日も目は覚める
ワンルームの天井が 今日も俺を見てる
誰も聞いてないなら 大声で歌える
五十路の夜は これからだ

これからだ…
隣でGPUが 唸ってる

「五十路の夜はこれからだ」(作詞: 筆者 & Claude)

制作プロセス:5ステップ

Step 1: 歌詞を作る(笑いの設計)

Claudeと相談しながら、「バラードで歌えば哀愁、ロックで叫べば開き直り」に両取りできる言葉を選びました。「半額シール」「残高を見て笑う」が哀愁担当、「それでも腹は減る」「明日も目は覚める」がロックで化ける担当です。170万円のPC購入(実話)を落ち込みの原因に据えたことで、この連載のオチとしても機能しています。

Step 2: MiniMax Music 3で楽曲を2バージョン生成

同じ歌詞に、スタイル指定(キャプション)だけ変えた2つのプロンプトを用意。キャプションは公式推奨の3部構成(Global Metadata/Vocal Details/Arrangement)で書きます。RTX 5090なら1曲1分前後で生成できるので、気軽にリテイクできます。日本語で歌わせるコツをいくつか発見しました。

  • 読み間違いしそうな語は音写にする:「五十路」は「ごじゅうじ」、GPUは「ジーキーユー」と歌われました(笑)。歌わせる用の歌詞だけ「いそじ」「ジーピーユー」に変えれば解決します
  • Vocal Detailsに「clear enunciation of every syllable」を明示すると発音が改善
  • 曲の尻切れは歌詞末尾に[Instrumental]タグ:最後の歌の後に演奏パートを構造として予約すると、歌い切ってから余韻で終わってくれます
  • max_durationは上限であって実尺ではない:90〜95秒指定でも実際は77〜82秒で曲として自然に終わりました

リテイク回数はロック2回、バラード8回。バラードの方がメロディの粗が目立ちやすい印象です。

Step 3: 主人公の参照画像をFlux.2で作る

MiniMax H3には参照画像から動画を作るRef2VAというモードがあり、これを使うと全カットに「同じ人物」を登場させられます。まずFlux.2で主人公のオヤジを3候補生成し、一番哀愁のある顔を採用しました。

Flux.2で生成した主人公オヤジの参照画像
主演俳優(Flux.2生成)。ワンルーム、光るPC、惣菜パックまで込みの世界観です

Step 4: 絵コンテ→16カットを一括生成

各バージョン8カットの絵コンテを作り、カットごとのプロンプト(参照画像+シーン描写)をComfyUIのAPIに一括投入。1カット約12秒、16カットでRTX 5090が約50分がんばってくれました。バラードは「一人の食卓」「未読のスマホ」「天井」、ロックは「ライブハウスでシャウト」「スーパー通路をドヤ顔で闊歩」「ゲーミングPCをトロフィーのように掲げる」など、同じオヤジの二面性を演出しています。

バラード版MVの1カット(残高を見て乾いた笑い)
バラード版より:「残高を見て笑う」のカット。参照画像と同じ顔が維持されています
ロック版MVの1カット(スーパーで惣菜を掲げる革ジャンのオヤジ)
ロック版より:同一人物です。革ジャンとサングラスを与えるとこうなる

Step 5: 編集(カット割りを曲に同期)

曲を聴いて「歌い出し/Pre-Chorus/サビ/アウトロ」の開始秒をメモし、それに合わせて各カットの使用尺を決定(EDL)。H3が生成した音声は捨ててMusic 3の楽曲に差し替え、ffmpegで結合しました。「ひゃくななじゅうまんの夢の機械」の歌詞で、バラードは残高を見て乾いた笑い、ロックはPC掲げのカットが来るように合わせてあります。

人間がやったこと、AIに任せたこと

今回の制作で強調したいのはここです。Claude Cowork(行動型AIエージェント)を使うと、人間の仕事は「方向性を決める・アイデアを出す・結果を確認して修正指示を出す」に絞られます。実際の分担はこうでした。

工程人間(私)Claude(Cowork)
企画・歌詞「同じ歌詞で哀愁とロックのギャップ」の発案、実体験ネタ出し、歌詞の採否歌詞ドラフト、両様に読める言葉選び
楽曲試聴して「発音が変」「尻切れ」等の指摘、テイク選び公式プロンプト仕様の調査、キャプション執筆、API投入、音写化などの対策立案
映像参照画像の選定、絵コンテの承認絵コンテ作成、16カット分のプロンプト執筆、一括投入と回収、品質チェック
編集曲のセクション秒数をメモ、完成品の確認EDL計算、ffmpegでの結合・音声差し替え

カットごとにプロンプトを書き、APIに投げ、結果を回収してつなぎ合わせる——この面倒な部分をぜんぶ任せられるので、私は惣菜を食べながら試聴してダメ出ししていただけです。歌詞の世界観と完全に一致した制作風景でした。

次回への改善点

  • 服装・会場の一貫性:ロック版はカットが変わると衣装やライブハウスの様子が微妙に変わります。人物だけでなく会場の様子も参照画像として渡せば改善できたかもしれません。またMiniMax H3は直前カットの末尾数秒を参照動画として渡し、連続性を保ったまま追加カットを生成できるそうなので、次はこれを試したい
  • リップシンク:今回は口の動きと歌詞は同期していません。ボーカルシーンだけでもリップシンクできれば完成度が一段上がるはず。やり方を調べてみます

まとめ

作詞から楽曲、映像、編集まで、170万円の自宅マシンとAIエージェントだけでMVが2本できました。制作期間は実質1日。「AIで何か作ってみたいけど何から始めれば」という方は、まず自分の哀愁を歌にしてみてはいかがでしょうか。意外と癒やされます。

五十路の夜は、これからだ。

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