9月に入ってPC系ニュースを眺めていると、やたらと目に付く単語があります。「RTX Spark」。ベルリンで開催中のIFA 2026に合わせて、ASUS、HP、Dell、Lenovo、MSI、Microsoft Surfaceと各社が一斉にRTX Spark搭載ノートPCやミニPCを発表し、ちょっとしたお祭り状態です。そしてその製品説明には必ずこう書いてある。「最大128GBの統合メモリ」。
統合メモリ機って何?専用GPUを積んだゲーミングPCと何が違うの?——そう思った方のために、この記事では今起きていることを俯瞰し、両者の違いとメリット・デメリットを整理します。なにしろ私は統合メモリ機(GMKtec EVO-X2)と専用GPU機(RTX 5090搭載GALLERIA)を両方買って170万円使った男です。語る資格はあるはず。財布にお金はもうありませんが。

いま何が起きているのか:2026年の統合メモリ機ラッシュ
NVIDIA:RTX Sparkで「Windows PCの再発明」
震源地はNVIDIAです。2026年5月31日、台北のGTC Taipei(Computex)でNVIDIAはMicrosoftと共同でRTX Sparkを発表しました。中身は、Blackwell世代のRTX GPU(CUDAコア6,144基、FP4対応の第5世代Tensorコア)と20コアのArm系「Grace」CPU(MediaTekと共同設計)を1チップに統合し、最大128GBの統合メモリを載せた「スーパーチップ」。AI性能は1ペタフロップ(FP4)。NVIDIA曰く、これで120Bパラメータ級のLLMを100万トークンのコンテキストでローカル実行でき、1440p/100fps超でAAAゲームも遊べるとのことです。
ポイントは、これがノートPCと小型デスクトップ向けだということ。薄さ14mmから、バッテリーは終日駆動。8月のgamescomではアンチチート対応やDLSS 4.5などゲーム側の追加情報も出て、「AI開発者向けの箱」ではなく「普通の人が買うPC」として売る気が伝わってきます。
そして今回のIFA 2026。ASUSはProArt P16/P14と手のひらサイズのミニPC「ProArt GR1X」(150×150×51mm、24時間稼働前提の冷却設計)を正式発表。この秋だけでも8機種のノートPC(Surface Laptop Ultra、Dell XPS 16 Creator Edition、HP OmniBook Ultra 16/X 14、Lenovo Yoga Pro 9n、MSI Prestige N16 Flip AI+など)が予定され、NVIDIAは「30以上のノートPCと10以上のデスクトップ」が控えていると言っています。価格は未発表ですが、報道では1,799〜2,899ドル程度と推定されています。
AMD:先行していたStrix Haloと、192GBの次世代
統合メモリ機のx86側の先駆けがAMDのRyzen AI Max+ 395(開発コード名Strix Halo)。私のEVO-X2に載っているチップです。AMDは2026年5月に、このチップと128GBメモリを載せた開発者向け小型機「Ryzen AI Halo」を発表(Micro Center独占、6月から予約)。さらに第3四半期には次世代のRyzen AI Max PRO 400シリーズが登場し、最上位のMax+ PRO 495は統合メモリ192GB、うちGPU用に160GBを割り当て可能。4bit量子化なら300Bパラメータ級のモデルをローカルで動かせるとしています。HPやLenovoから搭載機が出る予定です。
その先の本命、Zen 6+RDNA 5でLPDDR6を採用する「Medusa Halo」は2027〜28年と見られています。統合メモリ機最大の弱点であるメモリ帯域が、ここで大きく改善される見込みです(弱点の話は後述)。
主要プレイヤーを並べてみる
| 製品/チップ | 陣営 | 統合メモリ | 状況 |
|---|---|---|---|
| Apple M系(Mac Studio等) | Apple | 最大512GB | 統合メモリ機の元祖。2020年のM1から |
| Ryzen AI Max+ 395(Strix Halo) | AMD | 最大128GB | 発売済み。EVO-X2、Ryzen AI Haloなど |
| Ryzen AI Max PRO 400 | AMD | 最大192GB(GPU用160GB) | 2026年Q3、HP/Lenovoから |
| DGX Spark(GB10) | NVIDIA | 128GB | 2025年発売の開発者向け小型機 |
| RTX Spark | NVIDIA | 最大128GB | 2026年秋、6社以上から30機種超 |
Appleが始め、AMDがx86に持ち込み、NVIDIAがCUDAごとWindowsに載せてきた——というのが2026年の構図です。特にRTX Sparkは「NVIDIAのGPUとCUDAがそのまま使える統合メモリ機」なので、AI用途では本命視されています。
そもそも統合メモリ機とは何か
従来のPCでは、CPUが使うメインメモリ(DDR5など)と、GPUが使うビデオメモリ(VRAM)は別々の部品です。私のGALLERIAならメインメモリ128GB、RTX 5090のVRAMは32GB。両者はPCIeという細い道でつながっていて、GPUで計算するデータはVRAMに置く必要があります。だからAIモデルが32GBに収まらないと、途端に困る。
統合メモリ機は、CPUとGPUが1つのメモリを共有します。128GBの機種なら、その大部分をGPU用に割り当てられる。EVO-X2では共有GPUメモリ込みで約100GBをGPUに割り当てて使っています。「32GBのVRAM」対「100GBの共有メモリ」——AIモデルは大きいほど賢い傾向があるので、この容量差が統合メモリ機の最大の武器です。
メリットとデメリット
| 統合メモリ機 | 専用GPU機 | |
|---|---|---|
| GPUが使えるメモリ容量 | ◎ 100〜160GB級 | △ 16〜32GB(RTX 5090で32GB) |
| メモリ帯域(速さ) | △ 256GB/s級(LPDDR5X) | ◎ 1,792GB/s(RTX 5090) |
| 演算性能 | △ ミドルクラスGPU相当 | ◎ 桁違い |
| 消費電力・大きさ・静音 | ◎ ノート/弁当箱サイズ、100W前後 | △ フルタワー、GPUだけで500W超 |
| 拡張性 | × メモリ・GPUとも交換不可 | ◎ GPU交換、メモリ増設可 |
| ソフトウェア対応 | △ AMDはROCm(発展途上)/NVIDIAはCUDA(◎) | ◎ CUDA一強 |
| 価格 (2026/9/3現在) | 60万円前後〜100万円(128GB機) | グラボ(RTX 5090)だけで80万円前後 |
要するに、「大きなモデルを載せられるが遅い」統合メモリ機と、「速いが載る量に限りがある」専用GPU機という対比です。この差は理屈だけではなく実測でも出ていて、私のベンチマークでは画像・動画・音楽生成でRTX 5090がEVO-X2の12〜23倍速いという結果でした。一方でEVO-X2は、5090ではVRAMがギリギリになる動画モデルを余裕で完走します。
RTX Sparkが注目される理由もここで分かります。これまで統合メモリ機を選ぶと「CUDAが使えない」(AMD)か「Windowsが使えない」(Apple)かのどちらかを飲む必要がありました。RTX Sparkは統合メモリ×CUDA×Windowsを初めて揃えた。帯域や演算性能の壁は残るものの、ソフトウェア対応の壁が消えるのは大きい。
専用GPU機の逆襲:「VRAMに載らないモデル」を動かすFreeToken
ここまで読むと「大きなモデルを動かすなら統合メモリ機」で決まりに見えます。ところが専用GPU側にも面白い動きがあります。8月に公開された推論エンジンFreeTokenです。
最近の大型LLMの多くは「MoE(Mixture of Experts)」という構造で、モデル全体は巨大でも1トークンの計算で実際に使う部分(エキスパート)はごく一部です。FreeTokenはこの性質を利用して、エキスパート本体はメインメモリに置き、VRAMはよく使うエキスパートのキャッシュとして使う。メモリを階層的に使うことで、VRAMに丸ごと載らないモデルを実用速度で動かそうという発想です。
実測が興味深い。RTX 5090(32GB)+メインメモリ128GBの環境で、65GB超のgpt-oss-120bが単発127トークン/秒、83.5GBのQwen3.5-122B-A10Bが32トークン/秒で動いたとのこと。VRAMに収まるモデルではllama.cppやvLLMの方が速く、万能ではありません。それでも「32GBのGPUで120Bモデルが実用速度」は、統合メモリ機の最大の売りを部分的に切り崩す話です。
お気づきでしょうか。RTX 5090+メインメモリ128GBは、私のGALLERIAそのものの構成です。前回「メモリの64GB→128GB化だけで+10万円!」と自虐した増設が、ここに来て最高の投資に見えてきました。近いうちに試して記事にします。
結局どっちを買えばいいのか
- ローカルLLMを常時動かしたい、静かで小さいのがいい:統合メモリ機。中でもこの秋のRTX SparkはCUDAが動く分、AI用途の本命。AMD機は価格と192GBの容量で勝負
- 画像・動画生成やモデル学習で試行錯誤したい、とにかく速く:専用GPU機。速度差12〜23倍は用途によっては決定的です
- 専用GPU機でも大型LLMを動かしたい:メインメモリを盛ってFreeTokenのようなMoE向けエンジンを使う道が開けてきた。ただしMoEモデル限定
- 迷ったら:RTX Sparkの実機レビューと価格が出揃うこの秋まで待つのが賢明です。統合メモリ機の選択肢が一気に増えます
まとめ:両方買った男の末路
2026年は「統合メモリ機がメインストリームに上がった年」として記憶されそうです。Appleが切り開き、AMDが128→192GBへ押し広げ、NVIDIAがCUDAを引き連れて参戦。一方で専用GPU機もFreeTokenのような技術で「載らないモデル」の壁を崩し始めた。速さの専用GPU、容量の統合メモリという構図は当分続きますが、その境界線は動いています。
で、私はというと。RTX Sparkの発表を待たずに統合メモリ機と専用GPU機を両方買い、その専用GPU機のメモリを128GBに盛った結果、FreeTokenの推奨構成をうっかり先取りしていました。賢いのか愚かなのか自分でも分かりませんが、半額シールの惣菜を食べながらこの記事を書いている(ふりをしつつ、構成だけ決めたらClaudeに書かせてチェックだけしている)ことだけは報告しておきます。
RTX Spark搭載機もほしいなあ(破産。
参考リンク
- NVIDIA and Microsoft Reinvent Windows PCs for the Age of Personal AI(NVIDIA Newsroom、2026-05-31)
- NVIDIA、今秋登場予定のArmベース「RTX Spark」の追加情報を公開(エルミタージュ秋葉原、2026-08-26)
- ASUS Showcases ProArt PCs Powered by NVIDIA RTX Spark at IFA 2026(ASUS、2026-09-02)
- RTX Spark: All the laptops and mini PCs announced so far(PCWorld)
- AMD Powers Next-Generation Agent Computers with New Ryzen AI Halo Developer Platform and Ryzen AI Max PRO 400 Series Processors(AMD、2026-05-20)
- AMD Medusa Halo “Ryzen AI MAX” SoCs rely on LPDDR6(igor’sLAB)
- FreeToken(GitHub) / RTX 5090でFreeTokenを試してみた(Zenn、ほーりーふぉっくす氏)

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