前回はIFA 2026のRTX Spark祭りを取り上げましたが、同じ会場にはもう一人の主役がいました。AMDのRyzen AI Max+ PRO 495です。GMKtecがEVO-X5 Proを9月5日に正式発表、ACEMAGICはF9Aを展示、FrameworkはDesktopの192GB構成を予告、HPとLenovoも第3四半期に搭載機を出す予定。統合メモリ192GBという数字が、あちこちの製品説明に並び始めました。
私が使っているGMKtec EVO-X2に載っているのは、その一つ前のRyzen AI Max+ 395。つまり「後継機が出た側」の人間です。買って数か月で後継が出た悔しさを込めて、395からどこが改善され、増えた64GBで現実に何が新しくできるのか、いくらになりそうなのか、そしてRTX Sparkと比べてどうなのかを、実機オーナー目線で整理します。

私のEVO-X2の直系後継にあたるGMKtec EVO-X5 Proは、IFA会場で9月5日に正式発表とのこと。公式の告知はこちらです。

395 → PRO 495:何が変わったのか
まず結論から。PRO 495はStrix Halo(395)のマイナーチェンジで、CPUもGPUも世代は同じです。ACEMAGICが公開した比較表とAMDの発表をもとに並べるとこうなります。
| Ryzen AI Max+ 395(私のEVO-X2) | Ryzen AI Max+ PRO 495 | 差分 | |
|---|---|---|---|
| CPU | Zen 5、16コア/32スレッド、最大5.1GHz | Zen 5、16コア/32スレッド、最大5.2GHz | +0.1GHz(約2%) |
| GPU | Radeon 8060S、RDNA 3.5、40CU、2.9GHz | Radeon 8065S、RDNA 3.5、40CU、3.0GHz | +0.1GHz(約3%) |
| NPU | XDNA 2、50 TOPS | XDNA 2、55 TOPS | +5 TOPS |
| メモリ容量 | 最大128GB | 最大192GB | +64GB(+50%) |
| メモリ速度 | LPDDR5X-8000(256GB/s) | LPDDR5X-8533(273GB/s) | +6.6% |
| GPUに割り当てられる上限 | 96GB(Windows)/約110GB(Linux) | 160GB | +64GB(+67%) |
| AMD公称のローカルLLM対応 | 70B(4bit)、MoE 200B級 | 120B(4bit)、MoE 300B級 | +60% |
周波数は2〜3%、メモリ帯域は6.6%。この程度なら体感はほぼ変わりません。この製品の本質は「メモリが192GBになった」の一点で、あとはおまけです。なお「PRO」は法人向けの管理機能(AMD PRO Technologies)が付いた型番で、性能そのものとは関係ありません。
スペック上、その改善で何が良くなるのか
ここで一つ、統合メモリ機を語るときに避けて通れない物理法則を押さえておきます。LLMがトークンを1つ生成するたびに、モデルの重み(のうち計算に使う部分)をメモリから読み出すので、生成速度の上限はざっくり「メモリ帯域 ÷ 1トークンあたりに読む量」で決まります。
| モデルの種類 | 1トークンあたり読む量(目安) | PRO 495の理論上限(273GB/s) | 実用性 |
|---|---|---|---|
| 70Bクラス dense、4bit | 約40GB | 約7トークン/秒 | ギリギリ実用 |
| 70Bクラス dense、FP16(140GB) | 約140GB | 約2トークン/秒 | 載るが遅すぎる |
| 125Bクラス MoE(アクティブ6B、Qwen3.8-Flash-Next)、4bit | 約4GB | 約70トークン/秒 | 快適(実際は数十トークン/秒) |
| 397Bクラス MoE(アクティブ17B)、3bit | 約8GB | 約35トークン/秒 | 実用圏(実際はこの半分程度) |
つまり、192GBを「巨大なdenseモデルを載せる」ために使うと帯域が足を引っ張って実用にならず、「MoE(Mixture of Experts)モデルを載せる」ために使うと真価が出る。MoEは全体が巨大でも1トークンの計算に使う部分(エキスパート)は一部なので、読み出し量が少なくて済むからです。AMDが公称値を「MoE 300B級」と書いているのはそういう意味です。
帯域が6.6%しか伸びていない以上、「同じモデルがより速く動く」ことは期待しないほうがいい。期待すべきは「今まで載らなかったモデルが載る」ことと、「載せたまま別のことができる」ことの2つです。次はそこを具体的に見ます。
現実的に何が新しくできるのか
1. 増えた64GBで新たに動かせるようになるモデル
128GB機のGPU割り当て(約100GB)と、192GB機の160GBの間には、ちょうど今の「オープンモデルの最上位クラス」が挟まっています。代表例を挙げます。
| モデル | 必要メモリ | 128GB機(395) | 192GB機(PRO 495) |
|---|---|---|---|
| Qwen3.8-Flash-Next(4bit、UD-Q4_K_XL) | 約111GB(精度維持の目安92%) | × GPU割当を超える | ○ 余裕で載る(残り約50GB) |
| Qwen3.8-Flash-Next(3bit、UD-IQ3_XXS) | 約82GB(同85%) | △ 載るが精度低下が大きい | ○ |
| Qwen3.5-397B-A17B(3bit) | 約190GB(Unsloth: 192GB RAMシステムで動作) | × 2bitまで落とす必要あり | ○ 3bitで動く |
| Qwen3.5-397B-A17B(4bit) | 約214GB | × | ×(256GB級が必要) |
| Qwen3-235B-A22B級 MoE(4bit) | 約130〜140GB | × | ○ |
| 70Bクラス dense(FP16、無量子化) | 約140GB | × | ○(ただし遅い) |
| Qwen3.5-122B-A10B(4bit) | 約70GB | ○ | ○(余裕あり) |
| gpt-oss-120b | 約65GB | ○ | ○(余裕あり) |
目玉は、8月26日に公開されたばかりのQwen3.8-Flash-Nextです。次世代Qwen4アーキテクチャのプレビューという位置づけの125B(アクティブ6B)MoEで、SWE-bench Pro 62.5、CoWorkBench 73.9などエージェント系ベンチマークでClaude Opus 4.6 Maxを上回る値が公表されています(ベンダー公表値)。コーディングエージェントを手元で回したい人にとって、今いちばん熱いオープンモデルの一つです。
問題はサイズです。実用ラインの4bit量子化が約111GB。私の395機ではGPU割り当て(96〜110GB)をわずかに超えてしまい、3bit(約82GB)まで落として動かすしかありません。動くには動きますが、精度維持の目安は92%→85%と、体感でも分かるレベルで粗くなります。PRO 495なら160GBの中に4bit版が余裕で収まり、残り約50GBを長文コンテキストのKVキャッシュに回せる。「ギリギリ動く」から「本来の精度で余裕をもって動く」に変わる——これが増えた64GBの最も分かりやすい使い道です。
さらに上を狙うならQwen3.5-397B-A17B。Qwen 3.5シリーズのフラッグシップで、Unslothによれば「Gemini 3 Pro、Claude Opus 4.5、GPT-5.2と同じ性能帯」。3bit量子化(UD-Q3_K_XL)は第三者ベンチで精度低下1ポイント未満と報告されており、これも192GB級で初めて現実になるクラスです(128GB機では2bitまで落とすか諦めるかでした)。
2. 現行モデルが「余裕をもって」動く
122B級や120B級(65〜70GB)は128GB機でも動きますが、残りは30GB前後。ここにKVキャッシュ(会話の文脈を保持する領域)が入るので、256Kトークンのような長いコンテキストを本当に使おうとすると窮屈です。160GBあれば、モデル70GB+コンテキスト用に90GB。「長文コンテキスト対応」のカタログスペックを、実際に使い切れるようになります。
3. 複数のモデルを同居させる(ただし「同時に回す」は別の話)
私が一番期待しているのは実はこれです。今のEVO-X2では、ローカルLLM(70GB)を常駐させたままComfyUIで画像生成(Flux.2で30GB前後、動画のMiniMax H3なら40GB超)をしようとするとメモリが足りず、LLMをアンロードして、生成が終わったらまたロードし直すという運用になっています。数十GBのモデルのロードは毎回数十秒〜数分かかり、地味にストレスです。
160GBあれば、LLM 70GB+画像生成30GB+動画生成40GBが全部載ったままにできる。「LLMにプロンプトを考えさせて、そのままComfyUIに投げる」というエージェント的なワークフローが、ロード待ちなしで回せます。
ただし注意点。載せておけることと、同時に全力で回せることは別です。メモリ帯域は273GB/sを全員で分け合うので、LLMのトークン生成と拡散モデルの生成を本当に同時に走らせると、どちらも大きく減速します(専用GPU機ならVRAMとメインメモリで帯域が分かれていますが、統合メモリ機は一本道です)。現実的な使い方は「全部常駐させておいて、順番に使う」。それでもアンロード・再ロードの往復が消えるだけで、体験はかなり変わります。
で、いくらになるのか:メモリ高騰時代の実売予想
正式価格はどのメーカーもまだ出していません(2026年9月4日時点)。ただし手がかりはいくつかあります。
- Framework Desktop(395、128GB):2025年の発売時1,999ドルが、現在は3,449ドル。同じ製品が1年で7割値上がりしています。192GB版は4,500ドル超と見られています
- ACEMAGIC F9A:395版が2,999〜3,999ドル、PRO 495版は5,000ドル超の見込み
- GMKtec EVO-X2(私の機種):発売時1,499〜1,999ドルでしたが、私は今年の夏にAmazonで約52万円で買っています。すでにメモリ高騰が乗った価格です
- 市況:TrendForceはDRAM価格が2026年第2四半期も6割上昇と予測、第1四半期もすでに55〜60%上昇。AIサーバー向けHBMに生産が回り、PC向けDRAMの逼迫は2027年まで続く見通しです
192GB機は、高騰しているLPDDR5Xを128GB機より64GBも多く積む製品です。上記を踏まえた私の予想は、ミニPC型で日本実売70〜85万円、上振れすれば90〜100万円。HP・Lenovoのワークステーション型なら、さらに上でしょう。「メモリが安くなってから」を待つのは合理的ですが、その「安くなる」が2027年以降という予測が並んでいるのが辛いところです。
395・PRO 495・RTX Spark、三つ巴で比べる
| Ryzen AI Max+ 395 | Ryzen AI Max+ PRO 495 | NVIDIA RTX Spark | |
|---|---|---|---|
| 統合メモリ | 128GB | 192GB | 128GB |
| メモリ帯域 | 256GB/s | 273GB/s | 非公開(LPDDR5X系で同クラスと推測) |
| GPU | RDNA 3.5、40CU | RDNA 3.5、40CU | Blackwell、CUDA 6,144基、FP4/FP8対応Tensorコア |
| AI演算(公称) | 126 TOPS(NPU込み) | 131 TOPS(NPU込み) | 1ペタフロップ(FP4) |
| CPU/OS | x86、Windows/Linux | x86、Windows/Linux | Arm(Grace 20コア)、Windows on Arm |
| ソフトウェア | ROCm | ROCm | CUDA |
| 形態 | ミニPC、ノート | ミニPC、ワークステーション | 薄型ノート(14mm〜)、ミニPC |
| 価格の目安 | 128GB機で50万円前後(高騰後) | 70〜100万円(予想) | 1,799〜2,899ドル(報道の推定) |
PRO 495のメリット・デメリット
- ◎ 容量は現時点で最大:192GBはRTX Sparkの1.5倍。Qwen3.5-397B級の3bitが載るのはこちらだけ
- ◎ x86でWindows/Linuxが素直に動く:既存ソフト、ゲームのアンチチート、Docker、何でも今まで通り
- △ ROCm:改善は続いていますが(ROCm 10が8月に登場)、生成AI系ツールの対応の速さと最適化ではCUDAに一歩譲ります。私のベンチでも、量子化モデルではハード差以上の開きが出ました
- △ 演算性能は据え置き:395とほぼ同じ。画像・動画生成の速さを求める人には向きません
- × 価格:メモリ高騰の直撃を最も受ける製品
RTX Sparkのメリット・デメリット
- ◎ CUDAがそのまま動く:ComfyUI、llama.cpp、vLLM、学習ツール、全部最短ルートで最適化される陣営
- ◎ 低精度演算のハード対応:FP4/FP8をTensorコアで直接処理。量子化モデル中心の生成AIでは、同じ帯域クラスでもAMD統合機より速いはず(実機ベンチ待ち)
- ◎ 薄型ノートで終日駆動:持ち運べる統合メモリ機は現状ここだけ
- △ 128GB止まり:397B級の3bitは載らない。「120Bまで」がNVIDIA自身の公称ライン
- △ Arm版Windows:x86アプリはエミュレーション。ゲームのアンチチート対応はgamescomで一部表明があったものの、全部ではない
- ? 価格と実性能が未確定:秋の発売まで評価は保留
乱暴にまとめると、「最大級のLLMを容量で殴りたい」ならPRO 495、「生成AI全般をCUDAで速く、ノートで」ならRTX Spark。そして395は、そのどちらでもない代わりに今この瞬間に一番安く買える128GB統合メモリ機として、実は悪くないポジションに残ります(と、後継機が出た側の人間は自分に言い聞かせています)。
まとめ:395持ちは買い替えるべきか
- PRO 495は395のマイナーチェンジ。速さはほぼ同じ、実益は192GBの容量だけ。ただしその容量は本物で、Qwen3.8-Flash-Nextを4bitの本来の精度で動かせること、Qwen3.5-397B級の3bit運用、複数モデルの常駐という3つの新しい使い方を開く
- 「載る」と「速い」は別。denseの巨大モデルより、MoEモデルで真価が出る。同時実行は帯域を分け合うので、常駐させて順番に使うのが現実的
- 価格はメモリ高騰の直撃で、実売70〜100万円と予想。RTX Spark搭載機の実機と価格が出揃う秋以降に判断するのが賢明
では私はどうするか。397Bクラスが手元で動くのは正直かなり魅力的です。しかし、うちにはメモリを128GBに盛ったおかげでFreeToken向きになったRTX 5090機もあり、こちらでもMoEの120B級は127トークン/秒で回ります。そして残高は前回と変わっていません。結論:まず395でQwen3.8-Flash-Nextの3bit版を使い込んでみて、精度に我慢できなくなったら考える。メモリが安くなる2027年まで、半額シールの惣菜で我慢しながら緩く見守ります。
参考リンク
- AMD Powers Next-Generation Agent Computers with New Ryzen AI Halo Developer Platform and Ryzen AI Max PRO 400 Series Processors(AMD、2026-05-20)
- ACEMAGIC’s F9A Ryzen AI MAX+ 495 Mini Workstation Delivers Up To 60% Better AI Model Support Over 395(Wccftech、2026-09-02)
- GMKtec EVO-X5 Pro: the first mini-PC built on AMD’s Ryzen AI Max+ PRO 495(gagadget、2026-08-28)
- Framework Desktop with Ryzen AI Max+ PRO 495 gets 6.6% higher memory bandwidth and 192GB RAM(VideoCardz)
- Qwen3.5 – How to Run Locally(Unsloth Documentation)
- Qwen3.8-Flash-Next 必要スペック早見表(株式会社オブライト、2026-08-31)
- 【2026年9月更新】Qwen 3.5完全ガイド(Uravation)
- メモリ価格の高騰は2026年第2四半期も継続、DRAM6割/NAND7割上昇とTrendForceが予測(マイナビニュース、2026-04-09)
- 高騰するメモリ価格、2026年第1四半期もさらに55〜60%上昇の見通し(気になる、記になる…、2026-01-08)
- RTX 5090でFreeTokenを試してみた(Zenn、ほーりーふぉっくす氏)


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